with best regards

November 10, 2018

 

 

仕事柄、お客様から作品集やポストカード等々にサインを求められることがあります。

小学生の頃は誰でも必ずノートの片隅に自分のサインの練習をしてみたり、ってのはお決まりですが、まさかこの自分が人様にサインをお入れするような仕事に就くとは、当時は勿論夢にも思っていませんでした。

 

さてその際、自分は「Dear ○○○○様 with best regards 大森暁生 2018.00.00」といった具合で書かせていただいているのですが、実はこれ、とある作家さんの真似であり、そのかたへの憧れなんです。

 

 

愛知芸大の学生だった当時から自分はジョージ・シーガルさんのファンでした。

ちょうどその頃、銀座のギャラリーところ(もう無くなってしまったでしょうか)でジョージ・シーガル展が開催されるというのでワクワクして初日に観にいきました。

 

ところが、初日はオープニングパーティーの真っ最中。そして輪の中心にはなんとジョージ・シーガルさんご本人が。

展覧会の初日はパーティーがあるなんてことも知らない頃、しかもまさかご本人が来るわきゃないと思うわけで、まさかまさかの場違いな雰囲気に画廊にすら入れずに入り口で半ば諦め気味に扉ごしに覗き込んでいました。

 

すると優しそうな店員さんが「どうぞ」と店内に招き入れてくださいました。

嬉しくて嬉しくて、どうにかご本人とお話ししてみたいと思い、たしか2,000円くらいで売っていた図録を買い求め、店員さんに「これにサイン入れてもらえるでしょうか?」と伺うと「やさしいお爺さまだからたぶん大丈夫よ」と言われ、いざ思い切ってジョージ・シーガルさんご本人の前へ。

 

すると、ほんとうに優しい笑顔で迎えてくださり・・・

 

「君も美術をやっているの?」

「はい、美術大学で彫刻を勉強しています。」

 

そんな会話をかろうじて知っている単語をかき集め、お話しさせて頂きました。

で、思い切って図録を差し出すと「お名前は?」と聞かれ、そしてサラサラっと書いてくださったのが、上の写真。

 

それはそれは舞い上がるような気持ちで家路に就き、あらためて戴いたサインを見てみるとそこには「with best regards」と。失礼ながら、正直最初は意味以前にササッと書いてあるスペルがまず読み取れず、辞書片手にあれこれ調べ、ようやくそれが「敬意を表して」という意味だと知りました。

 

あのジョージ・シーガルさんが、こんないち学生に対して優しく接してくださったうえに「敬意を表して」と書いてくださったことに、なんてスマートで紳士でカッコイイんだろう、と感激してしまい、そのとき「いつか自分がこの仕事でサインを求められるようになれたら、その時は”with best regards”と書くんだ」と心に決めたのでした。1994年のことです。

 

ジョージ・シーガルさんはその後2000年に75歳で亡くなられましたが、いま自分が”with best regards”と書かせて頂くときは、お客様への敬意であると同時に、ジョージ・シーガルさんへの”with best regards”も密かに込めているのです。

 

 

彫刻家 大森暁生

 

 

 

 

George Segal

1924.11.26 – 2000.6.9

 

 


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