「創るのかぁ、、困った奴だ、、」手拭い物語
August 2, 2020
暑中お見舞い申し上げます。
と、ようやくこのご挨拶ができました。
長い梅雨でしたねぇ。
毎夏恒例、談志師匠から頂いた金言を染めた「創るのかぁ、、困った奴だ、、」手拭い、今年も「梨園染 戸田屋商店」さん、そして「旭染工株式会社」さんの職人技により見事に染め上がりました。
今年はご時世柄マスクとしてもお使い頂けるよう、清潔感のある白地にしました。
例年同様、ご縁あるかたに差し上げたいと思います。
さてさて、この手拭い、そんじょそこいらの手拭いではございやせん。
そこには長〜い時間と、そして人と人との物語があるのでございます。
以下、「創るのかぁ、、困った奴だ、、」手拭い物語、少々お付き合いのほど。
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そもそも自分は学生時代に“立川談志”の毒にやられて以降、今日までその毒が一向に抜けません。
当時、大学の休みを見つけては名古屋から東京まで“談志”の高座を聴きに足繁く通っておりました。
東京に戻ってからもその熱は増すばかり。気が付けば高座の打ち上げの席にまでお邪魔するほどになり、息子さんの慎太郎さんや娘さんの弓子さん、そして談志師匠の奥様 則子さんにまで可愛がって頂くようになったのです。
そんなご縁から、9年前に談志師匠が亡くなった際にはご位牌とお仏壇をつくらせて頂くに到りました。談志信者にとってこれはもう“上がり”のような名誉なのでございます。
生前の談志師匠との思い出は尽きません。なかでも銀座のTee Offで初めてプライベートの談志師匠にお会いした際、緊張と興奮の中、何かにサインを頂こうと、彫刻刀をしまう長年愛用の道具箱を抱え持参し、その薄汚れた道具箱を師匠に差し出しました。
そして自己紹介をする僕の顔をチラッと見て一気に書いて下さった言葉が・・・
「 創るのかぁ、、困った奴だ、、どうにもならない。創意と心中してみるか、立川談志 」
すさまじい言葉、そして洞察力。
その時の、鋭くもシャイで温かく優しいオーラは今でも忘れられません。生前2003年のことでございました。
毎日彫刻をする叩き台の傍らにはこの言葉があり、惰性やマンネリに逃げようとする自分を戒めてくれるのです。
このキラキラと輝く宝物のような金言、ふと考えてみると後に自身がスローガンに掲げた言葉 ” CREATION IS NOT OVER ! ” とまさに同じ意味ではないですか。
まったくの偶然、いや深層心理にあったのかもしれません。
とはいえ「心中」を“NOT OVER”と英訳するたぁ、我ながら洒落たもんです。
ならばこの二つの言葉を並べて、粋な手拭いに染めてみたい!と思い立ったのでございます。
手拭いといえば落語家にとっても彫刻家にとっても片時も手放さない必要不可欠な相棒のようなもの。これしかないのです。
しかしながら、恐れ多くも天下の立川談志の金言。勝手に使用するなど無礼千万。そこで恐る恐る弓子さんにご相談致しますと、著作権を管理されている慎太郎さん共々ご快諾を下さったのでございます。もちろん、売り物にはせず配り物に限るというお約束のもとであることは言うまでもございません。
(奥様 則子さんからは「大森くんの個展で売っちゃえばいいじゃない」と言われましたが、「ダメですダメです」とお気持ちだけ頂戴し丁重にお断りしました。則子さんは最高なかたなのです。)
しかも弓子さんは、談志師匠が生前ご自身の手拭いを染めていた染め物屋さんまでご紹介くださったのです。
それが冒頭にもふれました「梨園染 戸田屋商店」さんなのでございます。
早速、戸田屋さんにお伺いしますと、担当の風間さんがそれはそれは丁寧に手拭いの知識をひとつひとつ教えて下さいました。
なかでも興味深かったのがその生地のエピソード。
普通手拭いはその名の通り手拭い地を使用します。ところが談志師匠は少し幅の広い浴衣地を使って手拭いにしていたとのこと、浴衣地は目も細かくとてもしなやかで手触りも良いのです。
立川一門のお弟子さんがたも、師匠に憧れ戸田屋さんに依頼し談志仕様で作られるかたが沢山おられるとのこと。そのお気持ち、わかりますわかります。
となれば、もちろん自分も貴重な談志師匠の金言を染めさせて頂くわけですから、談志仕様でお願いするに決まっているのです。
そして手拭いを包む熨斗紙に書かれる赤い水引、緑の「のし」の文字も、談志仕様でお願い致しました。
昨今は手拭いをビニール袋なんぞに包む風潮もございますが、手拭いってものはそもそもビニール袋に入れるものではございません。
和紙の熨斗紙で粋に包んでこそ手拭いなのであります。そこもきちんと継承させて頂きました。これらすべて談志師匠への、自分からの出来る限りの敬意と礼儀なのでございます。
自分の生業は、単に商品をつくるのが目的なのではなく、自分にとって唯一無二の大切な物語をひとつひとつ丁寧にカタチにしてゆくことだと思っています。
つまりこの手拭いも作品同様。
談志師匠との思い出、そしてその宝物を丁寧にカタチに紡いでくださった戸田屋商店さん、旭染工株式会社さんとの大切な物語なのです。
チカラあるものを創るとき、そこには必ずルーツがあります。
以上、「創るのかぁ、、困った奴だ、、」手拭い物語でございました。
ご精読ありがとうございました。
彫刻家 大森暁生
梨園染 戸田屋商店
旭染工株式会社
D.B.Factory Film vol.9
コラム Please do disturb
vol.32 「追悼 立川談志」前編
http://www.gei-shin.co.jp/comunity/06/32n.html
vol.33 「追悼 立川談志」後編
http://www.gei-shin.co.jp/comunity/06/33n.html