霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 〈群馬県立館林美術館〉 作品紹介 ⑤
September 3, 2024
7月13日(土)〜 9月16日(月・祝)、群馬県立館林美術館にて 開催中の『 霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 』 ですが、会期も二ヶ月と長期のため、都度少しずつ、各種イベント、出品作品、書籍グッズ等々の情報をアップしてまいりたいと思います。
《 作品紹介 ③ 「UNDERCOVER 2005 S/S パリコレクション ” but beautiful Ⅱ」 (2004)
UNDERCOVER × AKIO OHMORI ”ハット” および ”スカート”》
先にご紹介いたしました「火の頭蓋」(2003)と名付けた骸骨型の燭台( http://akioohmori.com/voice/akioohmori-exhi-gmat-2024-15/ )、その作品を同じくアパレルブランドUNDERCOVER(アンダーカバー)のデザイナー高橋盾さんが目に留めてくださったことがきっかけとなり、翌2004年にはUNDERCOVER 2005 S/Sパリコレクションに出品する木彫のスカートとハットを制作させて頂くことになります。
当時荒川河川敷の小さな平屋の工房で細々と制作していた自分にいきなりパリコレが降ってきたのですから、それはそれは衝撃的な出来事でした。
ご依頼のお電話をいただき、青山にあるUNDERCOVERの事務所に飛んで行きました。
業界でも有名な、要塞のようにそびえ立つ、それはそれはカッコイイ事務所。
打ち合わせにはデザイナーで社長の高橋盾さんをはじめブランド中枢の皆さんがずらっと迎えてくださいました。
コラボ作品のため詳細はあまり書けませんが、兎にも角にも「木でハットとスカートを作りたいのですが、できますか?」と聞かれ「はい、できます」と即答しました。
パリコレ本番までの時間は約ふた月弱。
その帰り道、「できますって言っちゃったよ、、」と頭を抱えたことは言うまでもありません。
けれど言ってしまった以上やるしかありません。
図面を描き必要な材木を調達し、制作途中、何度も彫り途中の作品をUNDERCOVERの事務所に持ち込み、モデルさんに試着いただき・・・そうして急ピッチで彫り上げたハットとスカートを最後UNDERCOVERの事務所内に持ち込み高橋盾さんと一緒に仕上げのペイントをしました。
ペイント作業をしていると周りにはファッション雑誌でいつも見ている有名なデザイナーさんやスタイリストさんといった錚々たる顔ぶれが興味深そうに取り囲み、その輪の中で気恥ずかしくも誇らしい、けれどやっぱり夢の中にいるような、いま思い返しても全てが刺激的で貴重な体験でした。
UNDERCOVERの皆さんがパリへと旅立つ前日、事務所で木のスカートの着せ方をスタッフ皆さんにご説明し、本番は皆さんにお任せいたしました。通常コレクションモデルさんは、ショーのあいだ一人で何回も着替えますが、この木のスカートだけは一人のモデルさんが最初から着用しランウェイ脇でスタンバイ、そしてショーのファイナルで満を持して登場しました。
木のスカートが前後にゆっくりと揺れながら歩く様はまるでからくり人形のようで、振り子時計のような音響とともに見事に世界観と物語が完成していました。
このショーの様子は、今展で作品背後の壁面に映写しております。
その後もアパレル業界の先輩や友人達とは共に夢を語り合い、夢はやがて一つ一つカタチとなり、気がつけば先にご紹介したCelt&CobraをはじめRUDE GALLERY、Permanent Genuine、TORNADO MART、Chaos Designなどなど沢山のブランドさんとお仕事をさせて頂きました。彼等の期待に応えよう、彼等を驚かせようと無我夢中でした。
当時も今も美術界では、難解な作品に対してさらに難解なコンセプトや評論を着せ、それをひっくるめて「アート」と呼ぶ、そんな風潮にほとほと嫌気がさしていた自分は、アパレル業界、音楽業界に生きる彼等の「かっこいい」というシンプルでストレートで明快な評価に「やっとあたりまえの理解者に出会えた」という感激で、ますます彼等の世界と価値観に魅了されていきました。
今展5室目にあるコラボレーションエリアでは、彼等と創り上げた作品の数々、そして彼等の影響を多分に受け、その経験なしには生まれなかった作品を展覧しております。
彫刻家 大森暁生
UNDERCOVER 2005 S/S パリコレクション ” but beautiful Ⅱ
UNDERCOVER × AKIO OHMORI ”ハット” および ”スカート”
檜、銅、鉄、彩色
2004
Photo : D.B.Factory
霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 〈群馬県立館林美術館〉 作品紹介 ④
August 31, 2024
7月13日(土)〜 9月16日(月・祝)、群馬県立館林美術館にて 開催中の『 霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 』 ですが、会期も二ヶ月と長期のため、都度少しずつ、各種イベント、出品作品、書籍グッズ等々の情報をアップしてまいりたいと思います。
《 作品紹介 ③ 「火の頭蓋」 CELT&COBRA × AKIO OHMORI」 (2003) 》
自身初めてのアトリエを荒川区町屋という下町に構え、訥々と手探りで作家活動を模索し7年目を迎えた2003年のこと。Celt&Cobra(ケルトアンドコブラ)というアパレルブランドさんから骸骨の燭台をつくって欲しいというご依頼をいただきました。
Celt&Cobraは元ブランキージェットシティーの照井利幸さんが当時主宰していたブランドで、とある方からのご紹介で事務所に伺うことになりました。自身、“ブランキー“は世代でもありますし、照井さんと初対面の自分はそれはそれは緊張し、絶対に遅刻してはいけないと約束の2時間も前に現地に着いてしまったのは我ながら微笑ましい思い出です。
そして「骸骨型の燭台は世界中にいくつもある。そのなかで一番のものをつくって欲しい。」そういうご要望を頂きました。「世界中で一番」という言葉に気持ちが奮い立ち、そして全身全霊で彫り上げた木彫原型を抱え再び事務所へと伺うと、普段強面の照井さんがニコッと優しい笑顔を浮かべ一目見ただけで一発OKをくださいました。
この燭台は背面が透かしぼりになっていて、火を灯すと透かし彫りの模様が後方に広がります。
“透かし彫り“という工芸的な要素、さらには“実用性“というものは、当時の彫刻の世界では何故だか馬鹿にされることでした。けれど、狭い業界のくだらない価値観に縛られるよりも実際に胸踊る演出となるのであれば、やってしまえばいいじゃないか。そう自身の背中を押してくれたのは、照井さんの太鼓判があったからかもしれません。
“透かし彫り“はその後「Butterfly in the frame」、「Glorious images」、今展新作の「鮮血のアゲハ」といった作品、そして実用性は鏡の作品やテーブルの作品など、今となっては自身のアイコンの作品群として定着し、皆様にも広く認識いただいています。
アパレルさんとの仕事は自身の活躍の場だけでなく、自身の価値観も大きく広げてくれました。
そして“裏原“と呼ばれる世界で兄貴的存在だった照井さんが僕を招き入れてくださったことで、次々と多くの人達が認めてくださり、アパレルという異世界にたくさんの仲間や友達ができました。
アパレル業界など門外漢だと思っていた自分を、その世界に温かく迎え入れてくれた照井さんは紛れもなく人生の恩人です。
ちなみに今展で「火の頭蓋」の後ろに「RAVEN」というカラスの脚を描いたポスターを展示してあります。これは2004年に照井さんが発表したアルバムで、REVENとは「略奪」という意味のほかに「カラス」という意味も。そこで照井さんから「大森くん、カラスつくってたよね」とご連絡を受け、そのジャケットおよび歌詞カード等のためにドローイングを描き下ろしました。
当時、渋谷のタワーレコードの外壁にこのジャケットを拡大印刷した巨大なバナー広告が掲示され、描いた本人が誰よりも腰を抜かしたのは言うまでもありません。
先日も久しぶりに照井さんのライブに伺いました。
20年以上ご縁が続いていることが何より嬉しく、そしてご自身に正直な自然体の生き方は永遠の憧れです。
彫刻家 大森暁生
火の頭蓋(CELT&COBRAコラボレーション作品)
H15.4×W14×D20(cm)
ブロンズ
2003
(展示写真)Photo : D.B.Factory
(作品単体写真)Photo : KATSURA ENDO