霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 〈群馬県立館林美術館〉 作品紹介 ②
August 10, 2024
7月13日(土)〜 9月16日(月・祝)、群馬県立館林美術館にて 開催中の『 霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 』 ですが、会期も二ヶ月と長期のため、都度少しずつ、各種イベント、出品作品、書籍グッズ等々の情報をアップしてまいりたいと思います。
《 作品紹介 ② 「その雰囲気」 》
先にご紹介しました「カラスの舟は昇華する」ともう一点の卒業制作「その雰囲気」という作品です。
卒業制作展以来、初出しです。
木彫作品や動物の彫刻のイメージが定着していますので、アカデミックな肖像彫刻は意外に思われるかもしれません。
モデルは同級生の女の子。あだ名は「づめさん」。陶磁専攻で学んでいました。
彫刻専攻とは教室が近かったことや、同い年だったこと、そんなことでいつの間にか仲良しに。
なにより、本当に人間性の素敵な人で、自分も今日まで随分多くの素敵な人、魅力的な人と知り合い出会ってきましたが、その誰とも違う、上手く言えませんがとにかく会った人は絶対にづめさんを好きになってしまう、そんな人でした。
そこで彫刻専攻の友人と一緒にづめさんに無理をお願いしモデルになってもらいました。
タイトルにもあるとおり「雰囲気」やその人間的な魅力がまず最初にこっちの心に届く人というのは、彫刻にするのがとても難しいのです。たとえば、いつも笑顔の表情豊かな人が写真で一瞬を切り取られると「なんか違う人みたい」となるのと似ています。
きっと姿かたちではなく、一連の動作や所作、表情のうつろい、素敵な人というのはそういったものでインプットし、だからこそ忘れずにいつまでも心に居るのでしょう。
技法のことを少し。
まずは粘土で塑像します。それを石膏型にとり、脱乾漆という技法で型取りし、その後表面を漆で修正、整え仕上げます。
脱乾漆という聞き慣れない技法ですが、簡単にいうと漆と麻布をミルフィーユのように何層にも積層し、造形する方法のことです。なので、中はからっぽ、片手で持てるほど軽いです。
今回の館林美術館での個展が決まって以降、何度も美術館に足を運び下見をしました。もちろん展示構成を考えるためですが、そうしているうちに、ふとこの作品を展示してみたいと思い立ちました。
とはいえ、どこにしまってあるだろう?なにより今さら引きずり出してみても「やっぱり習作だよなぁ」と思ったら、出品はやめようと思っていました。そこは一応プロの端くれ、自身の郷愁やセンチメンタルだけで出品を決めては、お客様に失礼です。
早速実家に立ち寄り、仕舞い込みそうな物置をほじくり返していると、ほどなく見つかりました。
ダンボールの中に、きれいに新聞紙に包まれて。
ドキドキ開梱すると・・・「これならいける」それが第一印象でした。状態も驚くほど綺麗でした。
もちろん技術は稚拙です。第一、自分は塑像はあまり上手だと思っていません。
けれどこの作品、28年経つと自分の目もリセットされ、フラットに見ることができますが、あきらかに自分の技術の拙さを、づめさんの持つ魅力が引っ張り上げてくれてなお余りある、つまり立派な作品として成立していると感じました。
やはり、「なぜこの人をモデルにしたかったのか」そこが何より大事だったことに、今さらながら気付かされました。
そのづめさんですが、卒業後は障害者支援施設で陶芸を教えるなどいかにも彼女の天職のような仕事に就き、自分もその施設に遊びに行ったり、卒業後も交流が続いていました。
けれどその後ほどなくして、づめさんは空の高いところへ帰っていってしまいました。
彫刻は写真ともまた違う、タイムカプセルのようなものだと感じます。
単にカタチを真似るだけではなく、モデルさんと自分との気のやりとり、といいますか、関係性まで籠もってしまうといいますか。写真なら嫌いな人でもシャッターさえ押せば写すことは出来ます。でも彫刻は嫌いな人はきっとカタチにすらならないでしょう。
だからこそ、自分が魅力的と感じ、尊敬できる人がモデルだった場合は、それはきっと技術的に下手くそでも良い作品になることは間違いないのです。
づめさんを彫刻というタイムカプセルで残しておいて、本当に良かったなぁと思っています。
彫刻家 大森暁生
その雰囲気
H41×W37×D25(cm)
乾漆
1996
Photo : D.B.Factory
霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 〈群馬県立館林美術館〉 作品紹介 ①
August 9, 2024
7月13日(土)〜 9月16日(月・祝)、群馬県立館林美術館にて 開催中の『 霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 』 ですが、会期も二ヶ月と長期のため、都度少しずつ、各種イベント、出品作品、書籍グッズ等々の情報をアップしてまいりたいと思います。
《 作品紹介 ① 「カラスの舟は昇華する」 》
昨年そごう美術館にて開催の展覧会以降、この「カラスの舟は昇華する」という作品からまず皆さまにご覧頂くという展示構成が定番となっています。
写真ではわかりづらいかもですが、カラスだけで2メートルを超える大作なんです
この作品は、自身、愛知県立芸術大学 美術学部 彫刻専攻というところで4年間学んだ集大成、つまり卒業制作です。
学部1年生のとき、有楽町駅前で見たポリバケツに乗る一羽のカラスの美しさににハッとさせられ、以後、自分は具象彫刻で勝負してゆくんだ、と決意します。3年後その決断をさせてくれたカラスに恩返しをする思いで、カラスを舟に見立て、この先社会の荒波に漕ぎ出てゆく自分に重ね合わせ「カラスの舟は昇華する」と名付けました。
美術大学の卒業制作は、たいてい皆、秋風が吹く頃にようやく重い腰を持ち上げ作りだすのが常です。けれど自分は当時学生時代から彫刻家の籔内佐斗司先生の下でアシスタントをさせていただいていたので、そんな悠長なことは言っていられず、学部3年生の冬休みには卒業制作の構想を固め、マケットを仕上げ、4年生に上がった4月からは早々に制作に入っていました。なので、実質7ヶ月ほどの制作期間(夏冬の休みには籔内工房でのお仕事があったので)をかけ、その時の自分の持ち得る全ての技術と感性で取り組んだのを覚えています。勿論、いま見れば技術的にはとても拙く、下手くそです。けれど、感性の部分はというと・・・実は今の自分が嫉妬するような切れ味を持っていて、それははたして誇らしいことなのか、情けないことなのか、、
けれど当時、卒業制作展の会場では彫刻専攻の教授から「カラスに見えない」と酷評され、「そんなことはない、会場に入っていらっしゃるお客様は口々に「カラスだ!」と言って下さいます!」と血気盛んな大森青年は教授に食ってかかり、気付いたときには会場の真ん中で教授の胸ぐらを・・・とこれ以上は控えますが、実に微笑ましい?思い出です。
そんな可哀想な門出の作品ですが、翌年に銀座のギャラリー山口で開催した個展であらためて展示した際には、初個展にも関わらず500人を超えるご来場をいただき、ようやくこのカラスに晴れ舞台を与えてあげられた喜びで一杯でした。
あれから28年、今こうして全国各地の立派な美術館の入口をこの作品で飾れることになるなんて夢にも思っていませんでした。作品にも恩返しが出来たような、そんな嬉しく誇らしい気持ちです。
もしどこかで彫刻を辞めてしまっていたら倉庫の隅っこでホコリをかぶって眠り続けていました。
作品を生かすも殺すも作家次第。そのことを痛感します。
余談ですが、卒業後何年も経ってから、ある後輩の作家が「愛知芸大の木彫室にはずっと大森さんのカラスの写真が貼ってあって”伝説”と書かれていました」と教えてくれました。
”伝説”は作品のことなのか、はたまた胸ぐらを・・のほうなのか、、どうか作品のほうであって欲しいと願うばかりです。
彫刻家 大森暁生
カラスの舟は昇華する
H124×W230×D321(cm)
楠、乾漆、米松
1996
Photo : D.B.Factory