霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 〈群馬県立館林美術館〉 作品紹介 ③

August 17, 2024

 

 

 

7月13日(土)〜 9月16日(月・祝)、群馬県立館林美術館にて 開催中の『 霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 』 ですが、会期も二ヶ月と長期のため、都度少しずつ、各種イベント、出品作品、書籍グッズ等々の情報をアップしてまいりたいと思います。

 

 

《 作品紹介 ③ 「ぬけない棘のエレファント」(1999) 》

 

いつも作品をご覧いただいている方にはすっかりお馴染みの「ぬけない棘のエレファント」(1999)。言うまでもなく自身代表作の一つです。

 

初めてこの作品を出品したのは NICAF‘99 というアートフェア。現在の アートフェア東京 の前身です。
美術大学を卒業し作家活動を初めてまだ3年目ほどの未熟な自分にアートフェアという大きな展覧会のお話をいただき、しかも会場は当時出来立てホヤホヤの東京国際フォーラム。これで気持ちが昂らないわけがありません。

当然のことながら全くの無名の自分は、会場で一番目立つ作品を創ってやろうと決意し、かねてから取り組んでみたかった実物大のアフリカゾウで勝負することに決めます。
けれど、その当時はまだ実家の片隅3畳ほどのスペース(生前祖母の使っていた台所)をアトリエにしていましたので制作場所も全然足りません。
それまでのんびりアトリエ探しをしていましたが、急遽、大急ぎで不動産屋さんを巡り、東京の荒川区町屋という街に初めてのアトリエを構えます。
いま思えばそれら全ての情熱はアートフェアという大舞台を“取ってやる“という気持ちだったのでしょう。

 

さて、当時の作品にたびたびみられる角(ツノ)のお話を少し。
初めて動物の額にツノを生やしたのは「ぬけない棘の狼」(1997)という作品でした。
狼も象もどちらも強さの象徴のような存在です。けれど彼らはむやみに相手を攻撃をすることはなく、自身が生き抜くためや、攻撃をされた時にだけ、その牙を剥くそうです。
若かった自分は、一つ自分のやりたい事を実現させるためには10個も20個もやりたくない事もしなければなりませんでした。もちろん、これは作家に限ったことではなく、どんな仕事どんな立場でも若い頃というのはそういうものでしょう。
動物は置かれた環境や状況によって体の形態も進化します。例えば擬態だったり皮膚が鎧のように硬くなったり、首が長くなったり。
そんな動物に当時の何をするにももどかしい自分の気持ちを重ね、攻撃の象徴のようなツノが生えるような進化を遂げたら、それはとても切ないけれどさらに強い自分になるということなのだろう、そんな事を思い、具現化したのがこれらツノの作品です。
そして、自身から生えたものであるけれど外部からの要因で生えざるを得なかったということから、角(ツノ)ではなく棘(とげ)という言葉を当てました。

 

さて、そんな思いのたけ、情熱の塊で制作した「ぬけない棘のエレファント」でしたが、NICAF‘99ではすっかり待ち合わせ場所として活用されていたものの、かといってなんの話題になるわけでもなく、ましてやこれで一躍スターになんて妄想も藻屑と消え、現実の厳しさを知るのでした。

 

けれど、その後何年も経ってからこの作品は新宿髙島屋の大リニューアルや三越本店を飾らせて頂いたり、「ルパンの娘」(フジテレビ)や「Get Ready!」(TBS)といったテレビドラマにも起用いただいたりと大活躍。雑誌でミュージシャンとのコラボなんてことも何度かありました。
「ぬけない棘のエレファント Bronze edition」はZOZO本社のエントランスにも常設いただいております。

 

そう、ちょうど10年前に同 館林美術館で開催された「夏休み!いきもの図鑑」という企画にお声がけ頂いた時には、展示室ひとブースをいただき、この作品ほか約20点ほどを出品しました。
そして実は今回の個展では「ぬけない棘のエレファント」(1999)だけは10年前とまったく同じ場所に展示しました。

 

当時の自分に「いつか必ず館林美術館 全館を使って大個展が出来る日が来るから、今は棘を生やしてでも頑張れ」そう伝えてあげたいと思ったのです。

 

 

彫刻家 大森暁生

 

 

 

 

ぬけない棘のエレファント 

H255×W210×D205(cm)

楠、漆、彩色

1999

Photo : D.B.Factory

 

 


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