霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 〈群馬県立館林美術館〉 作品紹介 ①

August 9, 2024

 

 

 

7月13日(土)〜 9月16日(月・祝)、群馬県立館林美術館にて 開催中の『 霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展 』 ですが、会期も二ヶ月と長期のため、都度少しずつ、各種イベント、出品作品、書籍グッズ等々の情報をアップしてまいりたいと思います。

 

 

《 作品紹介 ① 「カラスの舟は昇華する」 》

 

昨年そごう美術館にて開催の展覧会以降、この「カラスの舟は昇華する」という作品からまず皆さまにご覧頂くという展示構成が定番となっています。

写真ではわかりづらいかもですが、カラスだけで2メートルを超える大作なんです

この作品は、自身、愛知県立芸術大学 美術学部  彫刻専攻というところで4年間学んだ集大成、つまり卒業制作です。

学部1年生のとき、有楽町駅前で見たポリバケツに乗る一羽のカラスの美しさににハッとさせられ、以後、自分は具象彫刻で勝負してゆくんだ、と決意します。3年後その決断をさせてくれたカラスに恩返しをする思いで、カラスを舟に見立て、この先社会の荒波に漕ぎ出てゆく自分に重ね合わせ「カラスの舟は昇華する」と名付けました。

 

美術大学の卒業制作は、たいてい皆、秋風が吹く頃にようやく重い腰を持ち上げ作りだすのが常です。けれど自分は当時学生時代から彫刻家の籔内佐斗司先生の下でアシスタントをさせていただいていたので、そんな悠長なことは言っていられず、学部3年生の冬休みには卒業制作の構想を固め、マケットを仕上げ、4年生に上がった4月からは早々に制作に入っていました。なので、実質7ヶ月ほどの制作期間(夏冬の休みには籔内工房でのお仕事があったので)をかけ、その時の自分の持ち得る全ての技術と感性で取り組んだのを覚えています。勿論、いま見れば技術的にはとても拙く、下手くそです。けれど、感性の部分はというと・・・実は今の自分が嫉妬するような切れ味を持っていて、それははたして誇らしいことなのか、情けないことなのか、、

 

けれど当時、卒業制作展の会場では彫刻専攻の教授から「カラスに見えない」と酷評され、「そんなことはない、会場に入っていらっしゃるお客様は口々に「カラスだ!」と言って下さいます!」と血気盛んな大森青年は教授に食ってかかり、気付いたときには会場の真ん中で教授の胸ぐらを・・・とこれ以上は控えますが、実に微笑ましい?思い出です。

そんな可哀想な門出の作品ですが、翌年に銀座のギャラリー山口で開催した個展であらためて展示した際には、初個展にも関わらず500人を超えるご来場をいただき、ようやくこのカラスに晴れ舞台を与えてあげられた喜びで一杯でした。

 

あれから28年、今こうして全国各地の立派な美術館の入口をこの作品で飾れることになるなんて夢にも思っていませんでした。作品にも恩返しが出来たような、そんな嬉しく誇らしい気持ちです。

もしどこかで彫刻を辞めてしまっていたら倉庫の隅っこでホコリをかぶって眠り続けていました。

作品を生かすも殺すも作家次第。そのことを痛感します。

 

余談ですが、卒業後何年も経ってから、ある後輩の作家が「愛知芸大の木彫室にはずっと大森さんのカラスの写真が貼ってあって”伝説”と書かれていました」と教えてくれました。

”伝説”は作品のことなのか、はたまた胸ぐらを・・のほうなのか、、どうか作品のほうであって欲しいと願うばかりです。

 

 

彫刻家 大森暁生

 

 

 

 

カラスの舟は昇華する

H124×W230×D321(cm)

楠、乾漆、米松

1996

Photo : D.B.Factory

 

 


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